蛙の王様

2015/01/31

蛙の王様

 ある沼池の中で、沢山の蛙が、喧嘩をすることもなく、たいへん幸福に
暮らしてゐました。蛙達は誰に気がねをする事もなく跳ね合つたり、水を
飛ばせたりしてゐました。しかし、そのうちに誰かゞ、このまゝではいけ
ない。王様を頂いて適当な制度を作らねばならぬと言ひ初めると、みんな
がそれに賛成し、ジョーヴと云ふ神様にお願して、王様を立てて貰ふこと
に相談をきめました。
「おゑらいジョーヴ様。」
と蛙達は言ひました。
「どうぞ私達をおさめて行く王様をよこして下さい。」
 ジョーヴ神様は蛙共が鳴き立てるので笑つてきゝ届け、王様として巨き
な材木をザンブリと沼の中に投げこみました。蛙達は突然起つた此の物音
に、吃驚仰天して堤の上に逃げのぼり、しばらくの間は言葉もなく、この
恐しい怪物を眺めてゐました。が、この材木王はいつまで経つても少しも
動かないので、蛙の中でも最も勇敢なのが、一二匹、大冒険を試みて材木
の方へ泳ぎついて、それに触つて見ましたが、それでも動きません。たう
とう蛙の中の一番の英雄が材木の上に飛び上って、ダンスを始めたので、
外の蛙もみんなそれに倣つて、同じやうに飛び上り、同じやうにダンスの
仲間に加はりました。やがて蛙共は自分達の中に遣されたこの新らしい王
様を、崇めやうとしないばかりか、馬鹿にさへするやうになりました。
 蛙共は又ジョーブ神様の所へ行つて頼みました。
「材木王は寝てばかりゐられますから、あんなのでなくて、命のある、動
くことの出来る王様をよこして下さい。」
 そこでジョーブ神様は鰻を遣しましたが、蛙どもはすぐこれにも馴れて
敬はなくなりました。
 そこで三度ジョーブ神様のところへ行つて頼みました。
「あんなにぬらりくらりしたのでない、もつと元気のいい王様をよこして
下さい」
 この願がきゝ届けられて、やつて来たのは鶴大王でした。この鶴大王は
蛙を片つぱしから餌食としてたべて了つて、今はこの広い沼の中にたつた
二匹しか蛙はゐなくなりました。その一匹が言ひました。
「私達にもつと智恵があつたら、あんな馬鹿なお願をジョーブ神様にもち
かけはしなかつたらう。私達は滅びることを望んだのではないのに。今は
さうなつて了つた。
 他の一匹が言ひました。
「余りに厳しい規則があるよりは規則のない方がよい。」
原文まま(イソップ童話 春秋社,1924)


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